麹町ラプソディ
丸の内サラリーマン(ブラック)が日常を五行で切り取るブログ。たまに小説も書きます。
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子どものまま大人になった、しがないリーマンのつぶやきです。
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2.「君はパスタとサンドウィッチを作って欲しい」
朝起きると、僕は柔らかいベッドに包まれていた。
 そうだ、悪い夢だったんだ。そう思って寝直そうとしたが、布団の感触がいつもと違っていた。
 ホテルのパリッとしたシーツのように、どこかしっくりこないのだ。

 仕方なく上体を起こし目を開けると、まるで見覚えのない部屋だった。
 ベッドの右側は大きな窓に面し、淡いグリーンのカーテン越しに柔らかな陽光が揺れている。
 上体を起こしたまま正面を見ると、北欧風の木製のタンスがあった。家具は詳しくないが、ひと目で丁寧に作られた高級なものであることがわかる。正面から左に視界を移していくと、部屋の入り口のドアが見え、コートのかかった鹿の角があり、ベッドの左手には深く腰掛ける安楽椅子が二つあった。椅子の間にはちょうどチェスのボードが置けるくらいの丸いテーブルがあり、ガラス製の灰皿が備えてある。いずれもやはり高級そうだ。
 そして、これだけ趣味の良さそうな部屋に不釣り合いな、ブルーグレーの軍服に身を包んだ老人が一人、椅子に深く腰掛けてこちらを見ていた。胸元は勲章で埋め尽くされ、手にしたパイプからは紫煙が細く伸びている。


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テーマ:文学・小説 - ジャンル:小説・文学

1.「やれやれ、と僕は思った」
大学二年生の七月から、翌年の一月にかけて、僕はほとんどパスタのことだけを考えて生きていた。
 その間に二十歳の誕生日を迎えたが、その刻み目はとくに何の意味も持たなかった。

 もし仮に今の僕がその時の僕に会ったなら、それを止めるだろうか。いや、おそらく止めないだろう。なぜなら、鍋の中でグツグツと煮立つトマト・ソースだけが、熱湯の中で踊るパスタだけが、その時の唯一の僕の希望であったからだ。若者にとっては、希望を求めることがすなわち生きることなのだ。

 そんな風にして僕は、柔らかいベッドの上で、パスタを喉に詰まらせて死んだ。

 やれやれ、と僕は思った。