麹町ラプソディ
丸の内サラリーマン(ブラック)が日常を五行で切り取るブログ。
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サトイチ

Author:サトイチ
子どものまま大人になった、しがないリーマンのつぶやきです。
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サークル「RoseBud」にて、定期的に一定のテーマで短編小説を書いています。
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【小説】赤い屋根の家 1.作田のケース
 国道の緩いカーブに合わせて芳樹がハンドルを切ると、僅かに慣性を感じた。夏とは言え日はとうに暮れ、灯りもなく森の中を縫って行く夜道は、もう二十六歳になる芳樹にとっても薄気味の悪いものであった。隣町に転勤になってから、仕事はそれなりに充実しているが、毎日この国道を通らなければならないのはちょっとした苦痛であった。しかし、今日は助手席に女性がいる分、気持ちは華やいでいた。

 「そう言えば、この道をもう少し行くと、赤い屋根の家があってね」
 会話の間を埋めるように、芳樹は話し出した。子どもの頃の話だから、笑わないで欲しいんだけど、と前置きをして。

「その赤い屋根の家は、呪われていたんだ」

 あれは確か、小学五年生のちょうど今頃、夏休みの終わりだった。
 間を埋めるのに適切な話題であったかはわからないが、僕は思い浮かぶままに当時のことを語り始めた。

 ◇◆◇

「有人、肝試しをしよう」

 僕はあまり友達が多い方ではなかったが、その代わりたまたま家が近かった、芳樹、有人、健司の三人でいつも遊んでいた。休みの日ともなれば三人のうち誰かの家で一緒にゲームをするのが常であった。幸い、それぞれの親同士も仲が良かった。

 「あ、いいね。ゲームも飽きたし」
 「夏休みももう終わりだしな」
 「でも、どこに行くのさ」

 有人はいつも、僕の思いつきに付き合ってくれ、健司はいつも、僕の無軌道な提案を形づけてくれていた。僕はしばし逡巡し、口を開いた。

 「赤い屋根の家」

 有人の顔に動揺が見えた。
 「え、それはさすがにまずいんじゃないかな。あそこ、呪われてるから近づくなって、みんな言ってるけど」
 「だから、肝試しなんだろ。あそこなら、自転車で30分くらいだし。有人、怖いのか?」
 有人は、怖くなんかないさ、と強がった。

 「健司は?」
 「肝試しだからね、それくらいがいいと思う。いつにしようか」
 有人は眉を八の字にし、健司だけが頼りだったのに、というような顔をした。

 「じゃあ、出発は明後日、夜11時。こっそり家を抜け出して、緑公園に集合しよう」
 「夏休み最後の日に肝試しか。締めくくりには相応しいイベントだね」
 「有人、もし怖かったら、無理に来なくていいんだからな」
 「行くよ!全然怖くないし!」

 懐中電灯を忘れずに、と言って、その日は解散した。


 ◇◆◇


 2日後の深夜、僕らは赤い家の前にいた。夜の国道は滅多に車通りがないはずだったが、昨日隣町で銀行強盗があったためか、途中でパトカーとすれ違った。見つかったらひどく怒られていただろう。健司が車のライトを素早く察知し、冷静に自転車ごと隠れられる場所を見つけ、みんなでやり過ごした。案外、ガードレールの下にいれば、気づかれないものだ。

 「見つからなくてよかったね」
 「パトカーが来たときはどうしようかと思ったけど、健司のおかげだよ」
 「本番はこれからだけどね」

 赤い屋根の家は、薄く月に照らされ、古い木造の輪郭を現した。もう何十年もそのまま残っているような、二階建ての無人の廃屋に漂う独特の威圧感が、妙に説得力を持っていた。呪いがあると言われたら、あるとしか思えなかった。

 「これ、本当に入るの?」
 有人がためらいを見せた。僕も少し後悔したけれど、ここまで来たら腹を括るしかない。
 「行こう。でも、一人ずつ行くと遅くなっちゃうから、みんなで行こう」
 有人は賛同し、健司は笑った。

 玄関の引き戸は、ガラスが割れていた。鍵はかかっていなかったので、ガラガラという音を立てて戸を開けた。割れたガラスは三和土に散らばっていたため、足で払いながら入る。早速クモの巣に引っかかった。
 「土足でいいよね?」有人が誰にともなく聞いた。
 「中にも色々落ちてるかもしれないし、土足で上がろう」健司が答えた。

 玄関からは正面と左手に廊下が伸びており、正面の廊下には二階へ続く階段がある。木造の階段は角度がかなり急であり、二階の様子はここからは見えなかった。右手には、「便所」と書かれた扉が二つあった。僕らは一階から探索を始めた。

 「うげ、カマドウマだ」有人が便所から声を上げた。
 見ると、長年使われていない便器には埃が積もり、ある種の虫には楽園のようだった。
 「虫、嫌いなんだよな。大人になったら、この世から虫を消し去りたい」有人がぶつぶつ呟いている。

 僕らはひとまず、正面の廊下を進んでみることにした。階段の横を通り、廊下を進むと、そこは台所であった。乾ききった台所は、無機質な冷たさを持っていた。真夏の夜だと言うのに、そこだけ空気がしんとしているように思われた。

 「ここには何もないね。次に行こう」
 僕は早々にそこを離れたかった。 家の奥には南京錠付の木製の扉と、風呂場と思われる曇りガラスのドアとがあったが、無視した。いったん廊下を引き返し、玄関の左手にある廊下を進んでみることにした。L字型の廊下を進むと、部屋が二つあることがわかった。一つの部屋は和室で、古い手紙のようなものが落ちていたくらいで、特に何もなかった。桐のタンスにも、何も入っていなかった。

 「何にも無いね。戦利品が欲しいとこだけど」
 有人は、徐々に慣れてきたのか、怖さを誤魔化すためか、口数が増えている。
 「もう一つの部屋に行ってみようか」

 和室を出て、もう一つの部屋の扉を押し開けた瞬間、僕は心臓が止まるかと思った。真っ暗な部屋の中心に、若い女性がこちらを向いて直立していたのだ。人は本当に驚いたとき、声が出なくなることを知った。形の古い、赤いワンピースを着て、手足はやけに白い。ややうつむいていたため、腰まである黒い長髪が顔にかかっている。目が合ってしまったまま、僕は息を吐くことも吸うこともできなくなってしまった。

 健司はそんな僕の横を通り過ぎ、その人に触れた。
 「これ、人形だね」
 「え? ホント?」

 確かに、よくできた人形だった。肌の質感は、近くで見るとさすがに人のそれとは違っていたが、それは時間の経過によるものと思われた。作られた当初は、本当に人間と見間違える出来だったに違いない。顔にかかった髪を避けると、整った顔が現れた。目鼻立ちは明確で理想的な位置に収まっており、純粋に、綺麗だと思った。

 「ったく、びびらせんなよ、マジで」
 「口がパクパクしてたね」
 「そんなことねーよ」

 緊張から解放された安堵から、自然と笑いがこぼれた。そこで、はたと気がついた。
 「あれ?そう言えば有人は?」
 「ほんとだ。いないね」

 「おーい、どこだー?」
 「ちょっと探してみようか」
 僕と健司は、今までの過程を遡り、和室、台所、便所と見たが、いなかった。

 「あとは、二階かな?」
 「でも、有人の性格から考えて、二階に一人で行くとは考えにくいけど」
 「確かに」僕は健司に同意した。

 「むしろ、さっきので驚いて、一人で先に帰ったのかも」
 「んー、でも、有人が一人で帰るかなぁ」
 「外に自転車がなかったら、帰ったってことじゃないかな」

 家の外にには、二台の自転車が並んでいた。
 「やっぱり、先に帰ったのかな」
 「そろそろ良い時間だし、僕らも帰ろう」

 こうして、小学五年生の夏休みは終わった。翌日、学校であった有人に何故先に帰ったのか尋ねたが、回答は曖昧だった。僕は、それを恥ずかしかったからだと捉えた。その二日後に風邪を引いた。体調を崩したり悪いことがあったりする度に、もしかしてこれが呪いでは、と考える日が続いたものの、日々は少年期特有の真新しさで彩られており、次第にそのような考えは浮かばなくなっていった。


 ◇◆◇


 「結局ね、呪いなんてなかったんだよ」
 僕は、助手席の女性にこう結論づけた。女性は涼しげな笑みを浮かべていた。

 そう、呪いなんてなかったのだ。

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テーマ:文学・小説 - ジャンル:小説・文学


コメント
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[2016/12/07 05:12] | # [ 編集 ]

Re: タイトルなし

コメントありがとうございます^^
「赤い屋根の家」については、毎週末更新・12話完結予定ですので、
また今週末もぜひお越しください!
それ以外の日については、1日1篇、五行詩を書いています。
僕の方も、またお邪魔させていただきます。
[2016/12/07 22:16] URL | サトイチ #- [ 編集 ]

管理人のみ閲覧できます
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[2016/12/09 20:02] | # [ 編集 ]

Re: タイトルなし

コメントありがとうございます!(返信が遅くてすみません。。。)
さて、小説の方は当初想定の三分の一ほどまで来まして、もしよろしければ引き続きお読みいただけると嬉しいです。
なかなかコンパクトにまとめようとすると、心理描写や説明をかなり削ることになるので難しいですね。
もっとこうした方がいいとか、こういうのが好きとか、そういったご指摘も是非遠慮なくいただけますと幸いです。

詩の方も、何か印象に残るものがあれば嬉しい限りです。
今後とも、どうぞよろしくお願いします。m(_ _)m
[2016/12/25 22:45] URL | サトイチ #- [ 編集 ]


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