麹町ラプソディ
丸の内サラリーマン(ブラック)が日常を五行で切り取るブログ。
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サトイチ

Author:サトイチ
子どものまま大人になった、しがないリーマンのつぶやきです。
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あと、甘党です。

サークル「RoseBud」にて、定期的に一定のテーマで短編小説を書いています。
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【小説】赤い屋根の家 2.小島のケース
 「ったく、ガス欠の車をパクってくる銀行強盗が、どこにいるってんだよ!」
 半田五郎は怒り狂い、目の前に落ちていた手紙の束を小島に投げつけた。
 「おい、小島!ちゃんと金は池に沈めてきたんだろうな?」
 私は、慌てて首を縦に振った。
 半田は息を大きく吐き、「これからの行動を検討する」と言って地図を取り出した。
 「尾上もこっちに来い」
 壁際の全身鏡を見ていた、くたびれた印象の女性がこちらに歩み寄る。肩くらいの長さの黒髪を後ろで一つにまとめている。私と半田より一回り若く、30歳ほどであるにも関わらず、何度拭っても染みついた不幸がとれない、といった顔立ちの女性だ。正直なところ、私はあまり好きではない。犬の鳴き声が、やけに近くに聞こえる。静かな夜だ。

 我々3人は現在、古い民家の二階に身を潜めている。 首尾よく銀行から金を奪って持ち出せたところまでは良かったが、私が盗んできた逃走用の車のガソリンがほとんど入っておらず、当初の予定を変更して近くの廃墟に逃げ込んだのだ。半田はこの辺りの出身であったため、ここには人が寄り付かないと判断してのことだった。万が一を考え、奪った金はアタッシュ・ケースに入れたまま袋を何重にも重ねて、近くの池に沈めてある。


 時刻は23時を回っており、周囲に民家もなく電気も使えないため、薄い月明かりを頼りに地図を見た。土地勘のない私には、地図はただの模様にしか見えなかったが、参加しているそぶりを見せておかないと、せっかく落ち着いた半田がまた怒り狂うのは目に見えていた。
 「この国道は長い一本道だ。昨日の今日で動くのはさすがに危険だから、ひとまずあと3日ほどここに身を潜め、機会を窺う」
 尾上がたまらず声を上げた。「こんな気味の悪いところに、あと3日も?冗談じゃない!」と言って、半田を睨んだ。
 「まあ、そう言わないでくれ。3日耐えれば、俺たちは自由だ」
 元々、この計画は半田と尾上で進めていたところに、急遽私が加えられた。元々参加予定だった別の人間が抜けてしまい、金に困っていた私に話が回ってきたのだ。したがって、私の立場などないも同然であった。銀行強盗につきものの拳銃も、半田と尾上は持っているが、私の分はなかった。


 半田は、地図にいくつか線を加え、私に森を徒歩で抜けて食糧とガソリンの調達をしろと言った。車は1階の納屋に隠してあるが、車種やナンバープレートも特定されている可能性がある以上、むやみに使用することはできなかった。何より、今はガス欠なのだ。
 「わかった。何度か往復する」

 私に拒否権はなかった。懐中電灯が手渡され、早速1回目の往復が申し渡された。半田は尾上と2人になりたいだけではないか、と私は思ったが、いずれにせよ、私の行動に変わることはなかった。半田は、道路のそばで懐中電灯を使うと目立つから、森に入ってから下向きに使うように、と言った。すぐにカッとなるところがあるが、人に指示を出し慣れている。私にも部下がいれば違ったのだろうか、と考えながら、年下の半田の指示に大人しく従った。こんなことだから、会社で昇進もできず、パチンコで借金を作り、妻にも子どもにも逃げられ、強盗の手伝いをことになってしまうのだ。


 今までの人生を呪いながら階段を下りると、自転車のブレーキの音が聞こえた。慌てて2階に引き返し、半田に自転車だ、と声を潜めて伝えた。半田と二階の窓のカーテンをそっと開け、3人の子どもが家に向かってくるのを確認した。自分の心臓の音が聞こえる。
 「目的はわからないが、俺たちに気づかないまま帰るなら、放っておく」
 「もし、気づかれたら?」
 「始末するしかないな」


 ガラガラと音を立てて、哀れな子羊が3匹入ってきた。幸い、階段は急なので、こちらから1階の様子はわからないが、2階にいることをすぐに気づかれることもない。
 階段の横に身を潜めて少年達の会話を聞いていると、肝試しで来たとのことだった。何と運の無いことか。その間、半田は音を立てずに何かを準備している。子ども達は階段の横を抜け、台所に向かったのち、引き返して個室の方に向かっていった。万遍なく調べるつもりだろうか。


 ほどなくして、1人の足音がためらいがちに近づいてきた。何かを探しているように、不規則なテンポであった。階段の下ではたと止まり、一拍置いてから階段を上ってきた。我々3人は、死角に身を潜めた。
 「小島、ガキが上がってきたら、後ろから口を押えて羽交い絞めにしろ。とにかく音を立てさせるな」
 私は黙って頷いた。

 少年が階段を登り切り、数歩進んだところで、私は指示通り後ろから口を押さえ、羽交い絞めにした。暴れそうになったところを、半田は手慣れたようにみぞおちを打撃し、声が出せない状態にしてから口に布を押し込み、その上からタオルで縛った。手足も手際よく縛りあげていく様は、見事としか言えないものであった。
 半田は懐から拳銃を取り出し、「音を立てたら殺す。お前の友達が2階に上がってきたら、友達も殺す。わかったか?」とすごんだ。哀れな子羊は、ただ首を縦に振る事しかできなかった。


 それから、少年を探す声が聞こえてきた。
 「3人始末するのは時間がかかる。いったん、こいつが先に帰ったと思わせれば、少なくとも明日の昼くらいまでは時間が稼げるだろう。予定より早いが、夜のうちに街で新しい車を盗んで、さっさと移動するぞ」
 半田は少年にどの自転車に乗って来たかを手短に確認し、私は二階の窓から外に降りてその自転車を納屋に隠した。もし私が子ども達に見つかっていたら、半田は容赦なく子ども達を撃っていただろうが、幸い見つからずに済んだ。
 私はそのまま納屋に隠れ、少年を除いた子ども達2人が自転車に乗り、音が十分遠ざかったのを確認してから2階に昇った。


 戻ってくるなり、「小島、こいつを始末しろ」と、拳銃を半田から手渡された。
 「ここで殺すと、処理が面倒だ。池まで行って、そこで殺して沈めろ」
 私は少年のふとももをガムテープで巻いて走れないようにしてから、足首の拘束を解いた。これで、ゆっくりだが歩くことはできる。
 「行くぞ」と、私は少年を促した。少年が動かないので、半田が怒鳴ると、少年はしぶしぶ歩を進めた。いつだって、人を動かすのは恐怖なのだ。


 ゆっくりと階段を下り、玄関を出て池に向かう。夏とは言え、夜の水辺はさすがに涼しかった。池に近づくにつれ、湿気のある、沈むような空気が漂ってきた。隣の少年は、死という概念を理解できていないように見えた。私も、きっと逆の立場だったら同じなのだろう。年齢の問題ではないように思えた。私にわかるのは、今ここで少年を殺さなければ、私が殺されるだろう、ということだ。もう失敗は許されない。


 我々2人は、池に対面した。対岸はかなり遠く、夜の闇にぼやけている。池としてはかなり大きく、湖といっても差支えないだろう。少年はうなだれたまま、目の焦点が定まっていない。
 私は懐から拳銃を取り出し、少年に向けた。そして、破裂音が響き、鳥が飛んで行った。
 少年は、不思議そうな顔でこちらを見た。少年ではなく、池の中心に向かって引き金を引いた、私の顔を。
 「自転車は、納屋に隠してある。ライトは目立つから、しばらく進んでからつけるように」
 少年は、何を言っているのかよくわからない、という顔をしている。私は構わず続けた。

 「私には、今年10歳になる息子がいる。いるにはいるが、もう何年も前に妻と一緒に家を出てしまって、ずっと会っていない。きっと、君と同じくらいだと思う。私にはとても、君を殺すことはできない。ただ、恥を忍んで一つだけお願いできないだろうか」

 私は、少年の目を見て、精一杯の誠意を込めて、伝えた。
 「できることなら、3日だけ黙っていてくれないだろうか。酷いことをして、怖い思いをさせたことはわかっている。後悔しかない人生だったし、いつまでも逃げられるとも思っていない。ただ、捕まる前に、最後に息子の顔が見たい」
 少年は、数秒私の目をじっと見つめ、静かに頷いた。

 私は少年の拘束を解き、納屋まで一緒に移動し、少年を見送った。少年は一度だけこちらを振り返り、ライトを付けずに闇に消えて行った。


 「長かった。長かったけど、ようやく大切なものに気づいたよ」
 おそらく、少年は黙っていてはくれないだろう。それでも、自分の決断は間違っていないと確信していた。心残りは、息子の顔を見ることができないことだけだ。

 これから半田の元に向かい、「始末した」と言ってから、街へ車を調達しに行くことになる。その後どうなるかは、その時になってみないとわからない。わからないが、精一杯逃げてみよう。


 家の玄関を開けると、すぐそこに半田が立っていた。半田の手には、尾上が持っていたはずの拳銃が握られていた。それは吸い込まれるように私の胸元に向けられ、残響を残して世界を切り裂いた。仰向けに倒れると、月がちょうど輝いているのが見えた。


犬の鳴き声が、やけに近くに聞こえる。静かな夜だ。


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