麹町ラプソディ
丸の内サラリーマン(ブラック)が日常を五行で切り取るブログ。たまに小説も書きます。
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サトイチ

Author:サトイチ
子どものまま大人になった、しがないリーマンのつぶやきです。
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あと、甘党です。

最近、小説ばっかり書いてますが、そのうち媒体を切り分けることも考えています。ただ、今はとにかく書くことが大事だということで、ひとまずこのまま混合して進めて行きます。



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【小説】 赤い屋根の家 11.北条のケース
「先輩、俺がいくら暇だからって、この歳でこんな夜更けに、こんな張り込みみたいな真似しなくてもいいんじゃないですかね?」
 西が非難の声を上げてきた。
「張り込みみたいな真似、じゃなくて、純然たる張り込みだ。天然パーマの西君は張り込みは嫌いかな?」
 北条は運転席で腕を組んだまま言った。筋肉質の巨漢から出る低音の効いた声は、まるで真実を述べているように車内に響く。
「天パは余計です。それにしても、本当に昔から好きですねぇ。俺は暇だからいいですけど、この前の強盗放火犯グループの拠点に乗り込んだときは、どうなることかと思いましたよ」
「最近の若者があんなに簡単にキレるとはな。さとり世代じゃなかったのか」
「頭数が揃うと、気が大きくなるもんですよ。今も昔も」
「っと、アレだな」
 軽口を叩いているところに、一台の車が入ってきた。車はライトをつけておらず、池に影だけを見せる主のように、夏のセミの声に紛れて黒い輪郭が砂利を噛む音と共に滑り混んできた。


◇◆◇

 張り込みの数時間前、西の家に北条が訪れ、車に乗るように言った。
「西君、今からドライブだ」
 何か事件に首を突っ込んだ時の北条の決まり文句であった。
「先輩、ここ最近見ないと思ったら、またですか」
「目が見えなくちゃ外に出ることも無いだろう。俺が連れて行ってやるよ」
「またそんなこと言って。ちょっとくらいは見えるんですから」と言っている最中に、北条は西の腕を掴んで連れ出した。西も、いつものことなので特に抵抗はしていない。西は腕を引っ張られながら、玄関の下駄箱の上にいつも置いている黒のサングラスを手に取った。


「もしかして、この前の話ですか?」
 走り出した車の助手席で、西はシートベルトに手をかけながら、北条に尋ねた。
「ご名答。あれはよく気づいてくれた。あの後、張り込みをしていたら、やはり昨日、男が深夜にライトを消した車であの家に来た。来る時は女と二人だったが、出るときは一人だった。その後、家を見て回ったが、何も見つけられなかった。あそこには必ず何かある」
「ああ、なんで言っちゃったんだろ」
 西は頭を抱えた。
「ライトを消した車なんて、夜はわからないからな。暗い夜道はお前の耳が役に立つのさ」
「トナカイじゃないんですから」
「天然パーマはいつ役に立つのかな」
「頭を撃たれた時に弾に絡んで衝撃が和らぐ、とか」
 先週、北条の車で遠出をした帰り道、西は夜中に国道から横道に入っていく車の音を聞いた。しかし、車のライトがついておらず、真っ暗な道を、真っ暗な状態で運転する車を西は不審に思い、北条にうっかり漏らしてしまった。
 その結果、今日も部屋から連れ出されるという結果になったわけである。


「俺の見立てでは、あれは例の連続殺人犯だ」
 県内で、半年間で八名の若い女性が行方不明になり、警察ではこれらの一連の事件に何らかの関連性があるものとして捜査活動にあたっていることが、二ヶ月ほど前にニュースで報道されていた。その頃の昼のワイドショーでは、これが連続殺人事件だと決めつけて、行方不明者の自宅等の映像や、家族へのインタビューを流していたものだったが、特に有力な情報も出て来ず、そのうちに有名女優の不倫のニュースに話題を持って行かれてしまった。
「殺人かどうかはわからないですけどね」
「大事なことは、この事件に懸賞金がかかっている、ということだ」
「金は万人のためにある」
「そのとおり。パチンコの負けを返そう」
「それは嘘ですね」


◇◆◇


「さて、そろそろ行くか」
 ライトを消した車から男が出てきて、赤い屋根の家に入ってから五分ほど待ち、北条は車のドアに手をかけた。
「ここ、あんまりいい思い出がないんですけどね」
「もう二十年くらい前か。頭を撃たれて生きていたのは奇跡だったな」
「おかげで目はほとんど見えなくなっちゃいましたけどね」


 家の前に立ち、北条は思い出したように言った。
「ところで、西君。天然パーマに黒のサングラスというのは、どうにも不審者にしか見えないのだが」
「ほっといてください。光に弱いんですから。天パは諦めました。」
 二人は家に入った。

 家の中は暗く静まり返っていた。携帯電話のライトを頼りに足を進めるが、人の気配はない。玄関を上がると二階へ続く階段があり、階段下のスペースは収納用と思われ、板張りの一部が引き戸となっている。ふと床に目をやると、階段下からわずかに光が漏れていた。
 引き戸を開けると、地下への階段が続いていた。
「これは、昨日は気づかなかったな」
「階段の下に階段があるなんて思わないですもんね」


 音を立てないよう慎重に階段を降りると、八畳くらいの土間があり、その奥に木製の扉があった。もう一つ部屋があるようだ。土間は暖色の裸電球に照らされ、古臭いカビの臭いにまじり、異臭が鼻をついた。
「こりゃ、当たりかもな」
「この奥、人がいますよ」


 二人が木製の扉を睨むと、不意に扉が開き、中から黒いシャツを来た若い男が出てきた。男は驚いた表情で詰問した。
「なんですか、あなた達は! ここで何をしているんですか。不法侵入ですよ!」
 北条は冷静に、「いや、ちょっとした社会科見学を、と思ってね。ところで、あなたこそここで何を?」と聞き返した。
 男は「ふざけないでください! 自分の家で何をしようと勝手じゃないですか。警察を呼びますよ?」と怒りを露わにした。
「あれ? ここは誰の家でもなかったはずですが。ところで、最近、若い女性が続けて行方不明になっていますが、何かご存知ではありませんか?」
「警察の真似ごとですか!? なんですか、あなた達は。人の家に勝手に上がりこんで、失礼にも程がある。何も知りませんよ。早く帰ってください」

 北条は西の方に向き直って尋ねた。
「西君、今の話はどうかな」
「全部嘘ですね。ここが自分の家と言うのも嘘。何も知らないというのも嘘。嘘をつくのが下手ですね」
 ありがとう、と言って北条は男に語りかけた。
「西君は目が見えない代わりに、耳が非常に良い。そのために、残念ながら嘘をつくとわかってしまうんだね。さて、君が何を隠しているのか教えてもらおうか」

 男は怒りの表情から、こちらを探る様子を見せ、数瞬何かを考えた後で口を開いた。
「わかりました。話ましょう」
 男は観念したように神妙な面持ちでこちらに歩み寄ってきた。聞かせていただきましょう、と北条は両手を広げて男を迎えた。
 三メートルほどの距離まできたところで、男の顔が急に北条の視界から消えた。男は脱力して一瞬でしゃがみ込むと、右手でポケットからナイフ取り刃を回して出し、一足で北条の胸元に飛び込んで突き出した。一瞬の出来事に、西は反応が遅れた。北条はまるでわかっていたように左手でナイフの持ち手を外に流し、相手の勢いを利用してみぞおちに右膝を、そのまま続けて左頬に鮮やかな右上段蹴りを決めた。
 男は膝から崩れ落ちたが、ナイフを逆手に持ち替え、崩れる勢いを利用して北条の左太ももにナイフを向けた。北条が体重の乗った左足を避けようとした瞬間、腰に痛みが走り、体が硬直した。刺さる、と北条が思った瞬間、西の素人めいた前蹴りが間に合った。ナイフは北条の横を通り、男は床に倒れ込んだ。立ち上がろうにも力が入らない様子で、北条は手から離れたナイフを素早く壁際に蹴飛ばすと、男の後ろから首に手を回し、締め落とした。

「ありがとう、助かった」
「たまたまです。やっぱり、腰は本当に痛めていたんですね。間に合ってよかった」
「さあ、さっさと奥の部屋を見よう。何も無かったらこっちが犯罪者になりかねない」
「気配はないので、この家には他に人はいないと思いますが、一応気をつけましょう」


 北条が扉を開けると、陰惨たる光景が広がっていた。
 北条の目にまず飛び込んだのは、足の付け根から下が二対、逆さまに並べられている光景であった。その時点で北条は吐いた。そのあと北条にできたのは、弱々しく扉を締めて警察に電話することだけだった。
 床に伏した男を見て、この悪魔が、と北条は思った。夏だというのに、体は震えが止まらなかった。西が北条の肩に手を置いた。北条は、どうか起き上がるなと念じながら、ようやく聞こえたサイレンの音に心から安堵した。

 セミの声が遠くで響いていた。どこか他人事のように、湿った夏の夜を照らしていた。


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