麹町ラプソディ
丸の内サラリーマン(ブラック)が日常を五行で切り取るブログ。たまに小説も書きます。
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【小説】赤い屋根の家 12.赤い屋根の家
「結局ね、呪いなんてなかったんだよ」
 そう思わないかい、と芳樹は助手席の女性に微笑みかけた。女性はただ静かに薄い笑みを浮かべていた。
「そうだろう、僕もそう思うんだ」
 夜中に行こうと思っていたけれど、ちょうどいいのでこのまま寄って行こうと芳樹は思った。この時間帯なら、それほど車通りがあるわけではない。芳樹は国道の途中で車のライトを消し、赤い家の前に車を止めた。彼女を大事そうに抱えると、地下室に運んだ。時間が経つと硬化してしまうから、早い方がいいだろう。関節を外してやらないと。


 子どもの頃、肝試しで美しい人形を見た。あれ以来、心のどこかにあの人形が居続けた。テレビで綺麗な女優やアイドルを見ても、ピンと来なかった。大学で初めて彼女ができたときも、あの人形がチラついた。理想型としてのそれが、いつでもそこにあったのだ。
 大学三年生の夏休み、就職活動のことを考え始めるタイミングで、僕は赤い屋根の家に戻ってきた。そこが原点であった気がしたからだ。これを解決しなければ、前に進めないと思った。家中をくまなく調べた結果、階段下の地下室を見つけた。あの時の人形はなかったが、数体の人形が残されていた。それを見たとき、僕の頭の中で歯車が噛み合った。

 それから先は、あっという間だった。地元で就職を決め、夜な夜な赤い屋根の家に通う生活が始まった。やはり、人間ではなく人形ではならなかった。でも、他の人形ではダメだった。赤い屋根の家にある人形でなくては、満たされないのだ。ただの人形では、何かが足りない。愛玩用の精巧と言われる数社の人形を試した後、僕は探求の道に入った。人と人形を分けるものが、そして、この人形とその人形を分けるものが何であるのかを知りたいと思った。数年の歳月を費やして辿り着いた答えは、『人からつくるしかない』というものだった。そこから半年後には、最初の殺人を犯していた。たまたまバーで隣に座った、長い髪のよく似合う子だった。動かなくなったこの女を見て、僕は答えに近づいたことを確信した。

「今、君に命を吹き込んであげるからね」
 三体目の関節を外しながら、僕は耳元で囁いた。もうすぐ答えが見える気がする。ここまで来たら、行けるところまで行くしかない。

 その一方で、心のどこかで誰かに止めて欲しいと思っていることに、自分では気づいていなかった。

◇◆◇

「芳樹が捕まった」
「健司君の幼なじみの? そりゃ、お気の毒に」
「もしかしたら、僕があっち側だったかもしれない」

 松島健司と佐脇圭吾は、姿見の前に座していた。二人と鏡の間には、一人の女性が横たわっている。
「あの時、たまたま僕が次の日にもあの家に行って、手紙を回収していなければ、ここまで辿り着けなかった」
「君は幼いながらも聡明だった。でも、驚いたよ。父から聞かされていた呪いの話の手紙が、まさか家庭教師先の机の上にあるとはね」
 健司は唇を噛んだ。
「迂闊だった。そして、まさかその意味がわかる人だとも思わなかった」
「不幸中の幸いと言ってくれ。そして、僕と君は秘密を共有することにした。君は賢かったよ。お互いにとって一番利益になる選択をしたんだ。だからこそ、君の母親にも手を出していない。」
 佐脇は健司に微笑んだ。健司は露骨に嫌そうな顔をした。

 二人は、隣の県の山間にある古民家にいた。誰も住んでいなかった家の一部を改装したもので、大きな地下室と鏡がある。
「でも、芳樹君に鏡のことを教えなくてよかったのかい? そうすれば、そんなことにもならなかっただろうに」
「いや、僕は知らなかった。僕だけだと思っていた。それに、こういうことは無闇に共有するものじゃない。親しいなら尚更ね」
「そういうものかも知れない。いずれにせよ、ここに鏡があることを知るのは僕らだけだ」
「それにしても、呪いを隠すために呪いの噂を流すなんて、僕には思いつかなかった」
「木を隠すなら森の中ってね。昔のことを知る人がいなくなった時、それは真実になる。それがあの件についての僕なりの解釈さ」
 佐脇は立ち上がり、両手をポケットに入れて部屋を出て行った。

「人形にされるのが呪いなら、人形に囚われるのもまた、呪いなのかもな」

 健司も部屋を出た。部屋には横たわった女性と、鏡に映った歪んだ女性だけが残された。
 遠くで、犬の鳴き声が聞こえた気がした。

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